退職金を取得した場合、相続税はどうなるの?

遺族に対して支払われる退職慰労金は、民法上では相続の対象となる遺産ではありません。しかし、相続税法上はみなし相続財産として課税の対象となります。

相続税法上、「みなし相続財産」とされるものには、@生命保険金、A退職手当金・功労金等、B生命保険契約に関する権利、C定期金に関する権利、D保証期間付定期金に関する権利、E契約に基づかない定期金に関する権利等があります。

被相続人の死亡によって支給された退職慰労金やこれらに準ずる給与は、被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものは相続財産とみなされます。支給形態は、金銭・物品を問いませんが、弔慰金や花輪代などの金額は含まれません。退職手当金等の受取人は、退職給与規定等で具体的に定められている場合はその規定により支給を受けることとなる人であり、定めがない場合は、申告書提出時までに現実に取得した人があればその人、相続人全員の協議により支給を受ける人を定めたときはその人、となります。

生命保険金や退職慰労金も以上のように税法上は相続財産として扱われますが、一定額については非課税財産として扱われます。非課税限度額は、「500万円×法定相続人の数」となります。養子がいる場合は、実子がいる場合は養子の内1人まで、実子がいない場合は養子の内2人まで、を法定相続人の数に入れることができます。むやみに養子を増やして相続税の納税を免れることを防ぐ趣旨です。

退職金は必ず支払わらなければならないものか?

結論から言いますと、退職金を支払うかどうかは当事者の任意です。つまり、支払わなければならないものではありません。

労基法89条は常時10人以上の労働者を使用する使用者に対して、就業規則の作成を義務付けています。しかし、就業規則の中に退職手当についての記載をすることは義務化されていません。退職手当の定めをする場合には、その旨を就業規則に記載していくことになります。

もし、退職金制度を設けるのであれば、就業規則の中に「適用される労働者の範囲、金額の決定方法、支払い方法、支払い時期」などを記載していくことになります。

もし、会社で中小企業退職金共済制度や確定企業給付年金等の社外積み立て型の退職金制度を利用している場合は、退職金を支払うことを前提としているとみなされますので、就業規則に退職手当について定めなければなりません。

退職手当についての定めの中には、退職金の没収、減額について規定することもできますのであらかじめ定めておきましょう。

契約社員への退職金の支払いは必要ですか?

退職金制度を設けるかということと同じで、退職金の支給範囲、支給条件をどのようにするかも使用者の任意ですので、契約社員への退職金の支払いは必要的ではありません。

労基法3条で社会的身分による差別が禁止されていますが、正社員と正社員以外の社員で退職金給付の有無に差が出るのは違法とはなりません。正社員は通常長期雇用を前提に採用され、企業内で経験を積みながら将来重責を担うことを期待されていることを考慮すると、正社員と非正社員によって退職金給付に差が出るのは、雇用契約締結によって生じる種別であるので、違法ではないということになります。

就業規則で退職金の支払い範囲についての規定が不明確であったりすると、退職金支給対象から除外された社員からの退職金請求でトラブルになるケースもありますので、退職金の支給範囲はしっかりとさだめておきましょう。

なお、退職金の支給範囲を、国籍、信条、社会的身分、男女の別等で差を設けるのは禁止されています。

退職金と従業員への貸付金を相殺できますか?

従業員の自由な意思に基づく同意があれば可能です。

ここにいう本人の同意は、「従業員の客観的自由意思」により行われたものでなければなりません。つまり、従業員の自由な意思で同意したとわかる客観的理由が必要になります。具体的には、借入金の返済を退職金で返済する手続きをとってほしいと従業員側からの申し出があったとか、委任状などの作成過程において強要するような事実が一切ないこと、退職金計算書などの受領の際に異議なく署名押印をしているなどの事実が必要になります。

なお、労基法17条に「使用者は…労働することを条件とする…債権と賃金を相殺してはならない」とありますが、退職金は、明らかな身分拘束を伴わないものであれば「労働することを条件とする債権」には該当しないので、相殺は可能です。

内縁の妻と実父母がいる場合に死亡退職金はどちらに払えばいいのか?

死亡退職金の支払いについて特に定めがなければ、死亡退職金を相続財産と考えて、相続人である実父母が取得します。

死亡退職金について、就労規則等に配偶者(内縁の妻を含む)を先順位とする旨の規定があれば、粗暴退職金は相続財産とはならず、内縁の妻が取得することになります。

ようするに、ここでも就労規則の内容が重要になってきます。特に規定していないのであれば、民法の原則に従って相続人にお支払いいただければいいですし、支払い方法について細かい規定を設けたのであればそれに従いましょう。

なお、会社サイドからは詳しい事情がわからずに誰に支払えばいいのかわからないという状況では、法務局に死亡退職金を供託しておけば支払い義務はなくなります。よくわからずに最初に請求してきた人に支払ってしまったりすると親族間の争いに巻き込まれる恐れもありますので、就業規則に詳細な定めを置くか、退職金を供託することをおすすめします。

 

ちなみに、内縁の妻と別居中の法律上の妻どちらに退職金を支払えばいいかという事例では、別居期間の長短にかかわらず法律上の妻が優先されることになります。会社で、事実上生活を共にしている者の保護を重視した退職金規定にしたいという希望があれば、その旨を就労規則に明記しておく必要があります。

懲戒解雇の場合には退職金不支給とする規定を設けることはできますか?

使用者は、退職金制度の有無並びに支給条件を任意に決めることができますので、懲戒解雇の際に退職金不支給とする規定を設けることはできます。公務員退職手当法でも、懲戒免職の場合は退職手当を支給しない旨を定めています。

ただし、懲戒解雇の場合に機械的に退職金を没収することは労働者に酷であることから、労働者に相当の背信性がある場合でないと不支給とするべきではないというのが実務上の取り扱いになっています。具体的には、会社財産の横領、重要な企業機密の漏えい、上司に対する暴力行為等があった場合は退職金全額不支給も認められやすくなります。

ライバル会社に転職した社員から退職金を返還させることはできますか?

就業規則に「同業他社に転職した場合の退職金は、一般の場合の半額とする」等の規定があれば、それに基づき退職金返還請求ができます。ただし、上記のような規定を置いたとしても、転職した社員の背信性が低ければ、半額すべての返還が認められるとは限りません。

具体的事例としては、福岡県魚市場事件があります。この事件は、会社の営業課長の地位にあった者が、在職中、競業会社設立に関与し、会社の業務命令を無視して仲買組合の幹部らと相通じ、魚市場のせり業務に従事する従業員の引き抜きも実行したというものです。この転職した元営業課長は勤続25年でしたが、上記の行為は、その功も抹殺してしまうほどの不信行為だと認められて、会社の就業規則上の懲戒解雇の場合の退職金不支給規定の適用は、使用者にゆだねられた裁量権の範囲内とされました。つまり、この事例では、退職金の全額の返還請求が認められました。

退職後に懲戒解雇に相当する行為を発見した場合に、退職金を取り戻すことができますか?

就業規則上に「懲戒解雇の場合」に加えて、「懲戒解雇に相当する事由が発見されたとき」も、退職金を減額・不支給にする旨を定めておけば、取戻請求は可能です。

裁判所は、このような就業規則上の規定がなかったとしても、労働者の在職中の違反行為の悪質性、重大性を根拠に退職金請求自体を権利の濫用として、退職金の取戻しを認めたこともあります。

また、いったん支払ってしまった退職金を取り戻すというような事態を防ぐために、懲戒事由を調査するまでは退職金の支払いを留保するというような規定を定めておくことが重要になります。具体的には、退職金の支払い時期を「退職から1か月以内」というようにしておきます。調査にもっと時間がかかると思われるのであれば、期間をもっと伸ばしておけばいいだけです。

 

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